はじめに:「一応、葬儀ブログ」だからこそ気づいた違和感
先日、ある葬儀に立ち会ったときのこと。
焼香がなく、代わりに賛美歌が流れ、牧師が壇上で20分以上語っていた。まるで教会の礼拝のようだった。
参列者からは「え?どういう宗派?」「焼香しなくていいの?」と戸惑いの声が上がった。
仏教式や神道式に慣れた日本人にとっては、この“異質”な空気に困惑するのも無理はない。
その葬儀を執り行っていたのが、**福音派(エヴァンジェリカル)**と呼ばれるキリスト教の一派だった。
今回は、葬儀屋としての視点も交えながら、「福音派とは何か?」「なぜ葬儀で摩擦が生まれるのか?」をわかりやすく解説していく。
福音派ってどんな宗教?
プロテスタントの中の“熱心系”
まず前提として、福音派はカトリックとは違い、プロテスタントに属する。
プロテスタントとは、16世紀の宗教改革でカトリックから分かれたグループで、ルター派、カルヴァン派、メソジストなどさまざまな教派が存在する。
その中でも、福音派は以下の特徴を持つ:
- 聖書を文字通りに信じる(聖書無誤論)
- イエス・キリストによる救い(贖罪)を中心に据える
- 回心(信仰告白)を強く重視する
- 個人の伝道と福音宣教に熱心
つまり、「イエスを信じなければ救われない」「聖書にすべて答えがある」と本気で信じている人々だ。
日本にも多い? 福音派系の教団たち
福音派というのは、ひとつの教団名ではなく、信仰スタイルの総称である。
日本国内でも、以下のような教会が福音派に該当する:
- 日本福音同盟(JEA)に加盟する諸教会
- 日本バプテスト連盟
- 福音自由教会
- ペンテコステ系(聖霊の働きを重視する)
「うちの近所の教会も福音派だったのか!」と驚く人もいるかもしれない。
では、なぜ福音派の“熱心さ”が、葬儀の場面で問題になるのだろう?

福音派の葬式ってどんな感じ?
静けさよりも「証し」と「喜び」
福音派の葬儀は、仏教的な「しめやか」「静謐」とは少し趣が異なる。
- 故人が「天に召された」ことを感謝し、喜ぶスタイル
- 涙よりも、感謝と希望を前面に出す
- 賛美歌やバンド演奏が入ることもある
- 焼香・線香・数珠は出てこない
そして最大の特徴は、牧師の説教にある。
多くの場合、牧師は「救い」の話をする。
つまり、「この世で罪ある人間は、イエス・キリストを信じることで救われ、天国へ行ける」というメッセージを、参列者に向けて語るのだ。
参列者も“伝道対象”?
福音派では、葬儀も伝道の機会と捉える。
「まだイエスを信じていない人がここにいるなら、今日こそその一歩を」と熱心に語る牧師も珍しくない。
これが参列者にとっては戸惑いのもとになる。
実際にあったトラブル事例
① 家族が無宗教なのに、教会葬が“布教の場”に
故人は福音派信者だったが、家族は無宗教。
「静かに送りたい」という家族の思いとは裏腹に、葬儀では牧師が20分以上「悔い改めと救い」を語り続け、親族からは「布教の場みたい」と苦言が出た。
② 地域の習慣とまったく合わない
地方での福音派葬儀。
町内会の高齢者たちが参列したが、焼香もなく、仏壇もない。「どうやって手を合わせたらいいのか分からない」と不満が出た。
式後には「あれは葬式じゃない」と陰口を言われたという。
③ ゴスペルとクラッカーに驚いた会葬者
ある教会では、明るく賛美する葬儀が行われ、ゴスペル隊が登場し、終了後に軽食とクラッカーまで。
「明るく送るのは良いことだけど…」と複雑な気持ちを抱く参列者もいた。

じゃあ、福音派は悪いの?
ここまで読むと、「福音派=迷惑な宗派?」と誤解されるかもしれない。
でも、そうではない。
彼らは、本気で「この世の命は終わりではない」「永遠の命がある」と信じている。
それを“伝えたい”という気持ちは、決して悪意ではない。むしろ「本気で人を愛している」からこそだ。
ただ、日本の文化とギャップが大きいため、時に“温度差”が摩擦を生むのだ。
福音派と他のキリスト教の葬式の違い
教派 | 葬儀の傾向 | 特徴 |
---|---|---|
カトリック | 厳粛な典礼中心 | 礼拝的。故人の魂の安息を祈る |
日本基督教団 | 礼拝+家族への配慮型 | 説教もあるが控えめ。社会的に穏健 |
福音派 | 感謝と伝道を重視 | 証し・福音メッセージがメインになる |
福音派の葬儀は「救い」がメインテーマであり、他の教派とは明確に違う。

まとめ:「信仰」を知ることが摩擦を減らす第一歩
福音派の葬式に違和感を覚える人も多いだろう。
でも、それは「異なる信仰スタイル」なだけで、間違っているわけではない。
日本の葬儀文化において、福音派は少数派かもしれない。
しかし、互いの背景を理解し、「こういう信仰があるんだな」と知ることで、すれ違いはぐっと減る。
故人の人生を尊重しつつ、家族や地域とも調和できる葬儀が理想だ。
だからこそ、葬儀屋や関係者が“違い”を学び、説明し、つなぐ橋渡し役になることが求められている。
福音派の葬儀——それは信仰の表現であり、時に文化との対話の場でもある。
一風変わったそのスタイルに戸惑う前に、まず「なぜそうなのか」を知ることが、弔いの心にもつながるのではないだろうか。
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