~ソウギシャでハタライテイルヒトタチハカワッテルノ!?~
年末が近づき、寒さが厳しくなるこの季節。みなさんは、自分の気持ちと向き合う時間が増えたりしませんか?
例えば、寒さが深まる夜、布団の中で何気なく今年の出来事を振り返ることがあるかもしれません。楽しかった思い出、挑戦したこと、あるいは失敗したことや後悔したこと。そんな瞬間にふと、「また同じような一年が来るのかな」と考えてしまうことがあるのではないでしょうか。特に、忙しい日々の中で自分の気持ちを整理する時間が取れないと、年末というタイミングで急にその重さを感じることもあるかもしれません。
こうした時期に、よく耳にするのが「年末には命を絶つ人が増える」という都市伝説です。この話が本当かどうかは分かりません。でも、葬儀の仕事をしていると、このような悲しい現実に触れることが少なくないのです。年末という時期の特性や、人の心に与える影響を考えると、決してあり得ない話ではないのかもしれません。
ある年末のことでした。私たち葬儀屋にとって忘れられない出来事がありました。その始まりは、警察署からの1本の電話でした。
警察署からの電話
「電車で命を絶った方のご対応をお願いできますか?」
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その電話を受けた瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚がありました。その感覚は、単なる驚きや緊張ではなく、これから向き合うであろう現実に対する予感のようなものでした。
葬儀の仕事ではさまざまなケースに対応しますが、このようなケースは特に心に響きます。電話越しに警察の方から状況を聞くだけでも、その現場の厳しさがひしひしと伝わってきました。細かい説明を受けながら、次第に頭の中に現場のイメージが鮮明に浮かび上がってきます。命を絶った方の無念や、その方を失ったご遺族の深い悲しみ。そんな思いが絡み合い、電話を切るころには心に重いものが積み重なるようでした。
亡くなった方は身元を証明できるものを持っていなかったそうです。それでも、警察の方々が何とかご遺族と連絡を取ることができたとのことでした。その状況を想像するだけで、ご遺族の混乱や悲しみの深さが胸に突き刺さるようでした。事務所で簡単な準備を整える間にも、心の中では現場の様子やご遺族の表情を何度も思い描いていました。
すぐに必要な準備を整え、指定された駅に向かうことにしました。車を運転しながら、考えないようにしても次々と頭に浮かぶのは、ご遺族の涙、現場の静寂、そして命を絶った方が抱えていたであろう深い苦しみのことでした。緊張と心の重さの中で、ただただハンドルを握り続ける手には、いつも以上に力が入っていました。外は冷たい風が吹きつけ、冬の夜特有の静けさが、より一層この仕事の重大さを感じさせました。
現場では、警察の方々の指示を受けながら、慎重に作業を進めていくことになります。一つ一つの動作が無言のうちに進められ、誰もが緊張感を共有しているようでした。その場に漂う空気、耳に届くわずかな音、足元から伝わる感覚—そのすべてが、自分の胸に刻まれていく瞬間でした。何も語らなくても、そこにいる全員がその重さを感じているのが分かる場面。言葉にできない感情が、現場の冷たい空気とともに心に染み込んでいきました。
警察官のすごさ
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現場に到着して、改めて警察官のプロフェッショナルな姿勢に感心させられました。彼らは感情を表に出すことなく、冷静に手際よく動き、必要な手続きを的確に進めていきます。その姿は、慣れた動作というよりも、一つ一つの行動に確固たる使命感が宿っているように見えました。彼らの背筋の伸びた立ち姿、冷静な目線、そして的確な指示。それらすべてが、現場の緊張感を支える中心となっているのを強く感じました。
警察官がどのような訓練を受け、どのような心構えで現場に臨んでいるのかは分かりません。しかし、その冷静さと行動力には、見る者の心を奮い立たせる力があります。特に、私たち葬儀屋のように精神的な負担が大きい仕事に携わる者にとって、彼らの態度は模範ともいえるものでした。
葬儀屋として警察の方々と接する機会は多いのですが、そのたびに彼らの親切さに驚かされます。駐車場の案内、受付での対応、そして現場でのサポートまで、すべてがスムーズに進みます。以前、一般的な警察対応で不快な思いをしたことがありましたが、葬儀の仕事で接すると、彼らの丁寧さや優しさがよく伝わってきます。それは、仕事に対する真摯な態度と、現場に関わるすべての人への配慮から生まれるものだと感じました。
今回のケースでは、ご遺体を袋ごと棺に納める形となり、現場で直接対面することはありませんでした。それでも、その場の空気や警察官たちの動きを見ているうちに、自分自身の心が徐々に引き締まっていくのを感じました。
会社に戻り、ご遺体と向き合う瞬間がやってきます。そのとき、自分の中には緊張と不安が入り混じった気持ちがありました。どんなに経験を積んでも、このような状況に慣れることは決してありません。それでも、亡くなった方を最後まで丁寧に見送るという使命感が、私たちを支えてくれます。
現場で感じる心の葛藤
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現場で作業を進めている間も、心の中には複雑な感情が渦巻いていました。「この方はどんな思いでここに至ったのだろう?」「自分にできることは何だろう?」と考えるたびに、胸が締め付けられるような思いに駆られるのです。目の前にある作業を進めながらも、ふと立ち止まってしまいそうになる瞬間が何度もありました。葬儀屋としての使命感は確かに強いものの、人としての感情を完全に切り離すことは簡単ではありません。
特に、ご遺族の心情を考えると、こちらも感情を揺さぶられることが多々あります。悲しみや後悔に押しつぶされそうになっているご遺族の姿を想像するだけで、胸が締め付けられるような思いになります。その一方で、私たちはその感情を表に出すことなく、冷静に対応しなければなりません。このバランスを保つことは簡単なことではありませんでした。
作業中には、ご遺族がこの場面を見たらどのように感じるだろうか、という思いが何度も頭をよぎります。それでも、その方の最後の瞬間を丁寧に支えようとする使命感が、自分を支えてくれます。どんなに辛い状況であっても、葬儀屋としての役割を果たすことで、ご遺族の気持ちが少しでも和らげられることを願いながら、作業を進めていくのです。
また、私たち葬儀屋自身も、感情を抱えたままでは次の仕事に向かうことが難しいため、心の整理をしながら進む必要があります。この仕事を選んだ以上、自分の感情と向き合い、折り合いをつけていくこともまた、重要な役割の一つであると感じています。そうした中で感じる葛藤や揺らぎが、この仕事の奥深さを教えてくれるのです。
時折、作業を終えた後に深い疲労感に襲われることもあります。それでも、「この方の最期に少しでも寄り添えた」という思いが、自分自身を前に進ませてくれる大きな力になります。
初めての対面
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「自分はこの状況をどう受け止めるのだろう?」「これを見たら、自分はどう感じるのだろう?」と、不安な思いが頭をよぎりました。対面する前の数分間は、どんな状況が待っているのかを考えるたび、胸がざわつくのを感じました。食事が喉を通らなくなるのではないかという心配もあり、頭の中で自分の反応を何度もシミュレーションしていました。
いざ対面してみると、想像していたほどの強烈な衝撃はありませんでした。ただし、約2週間、警察の安置室に保管されていたため、特有の臭いが染みついており、それが一番印象に残りました。その臭いは、何とも表現し難いものでしたが、一度嗅いだら忘れられない種類のもので、頭に染みついて離れない感覚でした。見た目の損傷は確かに激しいものでしたが、不思議と現実感が薄いようにも感じました。それは、感覚が麻痺していたのか、それとも想像を超えた現実に直面しているからなのか、自分でも分かりませんでした。
その場に立ち尽くしながら、「もしこの光景をご遺族が見たらどう思うだろうか?」という考えが頭をよぎりました。胸が締め付けられるような思いが押し寄せ、私自身の感情も揺さぶられました。遺族には「対面はおすすめしません」とお伝えしましたが、それでも何か伝えきれない思いが残りました。その決断は正しいと思いつつも、最後のお別れが叶わないことの悲しみを想像すると、心が痛みました。
会社に戻った後も、その光景が頭の中に焼き付いて離れませんでした。自分の心をどう整理するべきなのか、何度も自問自答しました。しかし最終的には、「この方のためにできることを全力で行う」という思いが自分を支え、次の作業に向かう力になりました。このような経験を通して、葬儀屋としての自分の役割を改めて強く意識することができたのです。
ご遺族の思い
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その後、ご遺族が葬儀場に訪れた際には、言葉にできない感情が溢れているのが伝わりました。目の前にいる方々の表情には、悲しみ、後悔、そしてそれ以上に深い愛情が混じり合い、まるでその空間全体を包み込むような重厚感が漂っていました。ご遺族が一歩一歩葬儀場へと進むその足取りには、不安と希望が交錯しているようにも見えます。心が壊れそうになりながらも、何とか立ち向かおうとする強さが感じられる瞬間でした。
葬儀屋としてその場に立ち会う私たちは、ご遺族の想いを受け止め、少しでも寄り添えるよう努めます。しかし、どれだけの準備をしても、その感情の波に完全に応えることは難しいと感じることが多々あります。目の前で涙を流されるとき、何かを訴えかけるような表情を向けられるとき、自分の無力さを痛感することもあります。それでも、ご遺族にとって最後のお別れの時間は、この世で一番大切な瞬間であるということを常に忘れないようにしています。
あるご家族が、最後の対面の場で静かに手を合わせ、しばらく何も言葉を発することなくただ涙を流していました。その場に流れる空気は、言葉では表現できないほどの静寂と重みがありました。家族の一人が小さな声で「ありがとう」とつぶやいたとき、その声が空間全体に響き渡るように感じました。それは単なる別れの言葉ではなく、深い感謝と後悔、そして永遠に続く愛情が込められた言葉でした。
私たち葬儀屋にとって、その場にいること自体が大きな意味を持つと感じます。涙を流されるご遺族に寄り添うことで、その瞬間を少しでも支えることができる。それは技術だけではなく、人としての優しさや共感が求められる仕事であり、そこに私たちの使命があるのだと実感しました。
この仕事への思い
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葬儀屋の仕事は、精神的にも体力的にも非常に大変なものです。それは単なる肉体的な負担だけでなく、目の前にいる人々の深い悲しみに向き合う中で、自分自身の感情と折り合いをつけていく作業でもあります。それでも、この仕事には他では得られない特別な使命感があります。それは、「この方の最後を支える」という、何物にも代えがたい責任と喜びを感じられる瞬間です。
警察官の迅速で的確な対応や、ご遺族の深い悲しみの中にも見える感謝の気持ち。それらが絡み合い、この仕事の尊さを改めて実感する場面は数え切れません。たとえば、ご遺族が最後のお別れの際に見せる穏やかな表情や、静かに「ありがとう」と言葉を紡ぐ瞬間。それは、私たちのすべての努力が無駄ではなかったと教えてくれる貴重な場面です。
この仕事は単なる作業ではなく、その方の最期の瞬間を丁寧に見届けることにあります。それは、「人生の終わり」をどう迎えるかという、誰もが避けられないテーマに向き合う仕事です。ご遺族の気持ちに寄り添いながら、最期の時間を彩るお手伝いができるという事実は、葬儀屋としての自分を誇りに思わせてくれます。
時には、自分自身が心を疲弊させることもあります。それでも、この仕事を続けることで見えるもの、得られるものがあると信じています。大切なのは、目の前のご家族一人ひとりの思いに耳を傾け、その瞬間を共有すること。その積み重ねが、この仕事をより深く、意味のあるものにしているのだと感じます。
みなさんも、年末の忙しい時期に少しだけ立ち止まり、自分自身や周りの大切な人を思いやる時間を作ってみてください。普段は伝えられない感謝の気持ちや、ふと忘れがちなつながりの大切さを思い出すことができるかもしれません。それは、小さな一歩かもしれませんが、その一歩が未来を変えるきっかけになるかもしれません。
葬儀屋としての日々の中で気づいたこと、それはどんな状況でも「人は一人ではない」ということです。大切な人との絆を感じ、その絆を守ること。それが、より良い明日を築くための第一歩になると信じています。