
「葬儀の日取りはどうしよう」「友引は避けたほうがいいの?」
日本では、葬儀や法要のスケジュールを決めるときに「六曜(ろくよう)」を意識する方が少なくありません。とくに大切な故人を送り出す場面では、“縁起が良い・悪い”という言い伝えが気になるものですよね。
でも、「六曜」とは一体何なのでしょうか? ただの迷信とわかっていながらも、なぜ今でも火葬場の休業日や冠婚葬祭の日時にまで大きな影響を与えているのでしょうか?
本記事では、六曜の歴史や成り立ち、具体的な意味、そして葬儀における現代の実情までを完全ガイドとしてわかりやすく解説します。六曜をどう捉え、葬儀の日取りをどう決めるべきか迷っている方や、葬儀業界に携わる方の参考になれば幸いです

1. 六曜とは?そもそもの歴史と成り立ち
● 古代中国の占いから始まった小六壬(しょうろくじん)
六曜の始まりは、中国で生まれた「小六壬(しょうろくじん)」という占いにさかのぼります。これは陰陽五行説や干支(十二支)など、当時の中国で広く行われていた占術の一つとされ、日々の吉凶を占うために考案されました。宮廷や軍事の戦略など、「どの日に行動を起こすべきか」を判断するための指標として使われていたのです。
● 日本への伝来と鎌倉~室町時代の広がり
この占いの考え方が日本に伝わったのは、鎌倉時代から室町時代にかけてだといわれています。当時、日本では貴族や武家社会、さらには寺社勢力など、多くの場面で暦と占いが重んじられていました。大陸から伝わる新しい占法(せんぽう)は注目を集め、やがて「小六壬」は日本独自の解釈を伴って「六曜」へと発展していきます。
● 江戸時代後期に庶民へ普及
六曜という呼び名とその形式が定着したのは、江戸時代後期とされています。このころになると庶民が入手できるカレンダー(暦)に六曜が記載され、一般の人々が「吉日」「凶日」という概念を使いやすくなりました。
例えば「大安は縁起が良い日だから、祝い事に向いている」「仏滅は避けたい」といった意識が広まり、現在まで続く風習の礎が築かれたのです。

2. 六曜の6つの種類と意味~葬儀との関係は?
六曜は、以下の6種類の日取りから構成されています。ここでは、それぞれの意味と葬儀シーンにおける関係性を詳しく見ていきましょう。
六曜 | 読み方 | 意味・縁起 | 葬儀シーンでの扱い |
---|---|---|---|
先勝 | せんしょう(さきがち) | 「先んずれば勝つ」という意味。午前が吉、午後が凶とされる | 午前中に葬儀を執り行う場合には好まれる傾向 |
友引 | ともびき | もとは「勝負がつかない日」。現在は「友を引く」として忌み嫌われる | 火葬場が休みの地域が多い。葬儀は避けられがち |
先負 | せんぷ(さきまけ) | 「先に動くと負ける」という意味。午前が凶、午後が吉とされる | 午後に葬儀を行うのが無難と考えられる |
仏滅 | ぶつめつ | 「仏も滅する」という字面から最も凶の日とされる | 一般には忌避されがちだが、逆に葬儀場が空いていることも |
大安 | たいあん | 「大いに安し」。一日中吉とされ、最も縁起の良い日 | 結婚式に人気だが、葬儀にも「安心感がある」と好まれることも |
赤口 | しゃっこう(しゃっく) | 正午のみ吉で、他は凶。火や血を連想させるため敬遠されがち | 「赤」にちなんで火葬と結びつき、避ける人もいる |
特に葬儀に深く影響しているのは「友引」です。
次の章では、友引が「なぜこれほどまでに」嫌われるのかに焦点を当てて解説します。

3. なぜ「友引」が嫌われるのか?火葬場が休みになる理由
● 友引の本来の意味は「勝負なし」
実は「友引」という名称は「勝負なしの日」というところから来ています。古い文献では「共引」と表記されることもあり、勝負事が決着しない日と解釈されていました。しかし、それが日本においていつしか**「友を引く」=不幸を友人にも引き寄せる**という縁起の悪い意味合いで広まってしまったのです。
● 火葬場の定休日として根付いた背景
日本各地の火葬場では、友引を定休日にしているところが少なくありません。これは「葬儀を避けるべき日」という迷信だけでなく、実務的な理由も絡んでいます。
葬儀・火葬は突発的なことが多く、火葬場も常に稼働し続けるとスタッフの労働環境が厳しくなります。そこで、もともとの六曜の風習に乗じて「友引=休み」という形をとることで、休業日を固定化しやすくなったとも言われています。
● 友引の日でも通夜だけ行って翌日に火葬
実際には「友引=絶対に葬儀や火葬ができない」というわけではありません。
地域や火葬場の運用によっては開業していることもあり、または「友引に通夜を行い、翌日に火葬する」というスケジュールをとることも可能です。
ただし、ご親族や年配の方から「やはり友引は避けてほしい」と強い要望が出る場合もあるので、事前にしっかり確認しておくことが大切です。

4. 六曜が今も残る背景~文化?迷信?
● 明治時代に一度禁止された六曜
実は、明治政府が西洋式の太陽暦(グレゴリオ暦)を導入した際に、六曜を暦に記載することを禁止していた時期があります。近代化を目指す政府にとっては「迷信」とみなされていたからです。
しかし、庶民生活に深く根ざしていた六曜は、その後も非公式に伝承され続け、昭和に入るころには再び市販カレンダーに載るようになりました。
● 信じる・信じないではなく「気持ちの問題」
現代の科学的な視点で見れば、六曜に根拠はありません。仏教の教えでもないため、宗教的な背景も乏しいのが実情です。それでも、結婚式を大安に、葬儀を友引以外に、という発想は根強く残っています。
この理由としては、やはり**「気分的にそちらのほうが安心」**という心理的な要素が大きいです。
葬儀では故人を安心して送り出したいという思いが強く、周囲の親族や友人の気持ちを乱したくないという配慮から、六曜を重視するケースが多いのです。
● 冠婚葬祭業界の慣習
また、冠婚葬祭業界も六曜を意識してきた長い歴史があり、業務や料金体系などに反映されていることがあります。
例えば大安は式場の予約が埋まりやすく、仏滅は比較的空いていて料金を抑えられる場合がある、など。こうした業界側の事情が、六曜が根強く残る背景にもなっています。

5. 葬儀社・火葬場・親族との調整ポイント
● 火葬場の営業日をチェックする
まずは、葬儀を行う地域の火葬場が友引でも営業しているかどうかを確認しましょう。都市部では友引でも稼働しているところが増えてきていますが、地方では「完全休業日」としていることが一般的です。
● 親族・親戚の意見を聞く
年配の親族がいる場合、六曜へのこだわりが強いケースが多いです。
「迷信だから気にしなくていい」と言っても、納得してもらえない可能性があります。大切なことは、ご遺族や参列者の気持ちを考慮し、トラブルを避けるためのコミュニケーションをとることです。
● 通夜と火葬を分けて日程調整
もしどうしても友引しか日程が合わない場合、友引に通夜を行い、翌日に火葬するという方法もあります。通夜と火葬が連続しない点で少し不便に感じるかもしれませんが、六曜を重視する人がいる場合には良い妥協点となります。
● 式場・斎場の空き状況を確認
大安や先勝などは人気が高いため、斎場や式場の空きがないことがあります。逆に仏滅や赤口は敬遠されがちで、比較的予約が取りやすかったり費用が抑えられたりすることも。
六曜だけにとらわれず、参列者のスケジュールや斎場の予約状況など、総合的な観点で日取りを決めると良いでしょう。

6. 六曜と仏教の関係は?宗教的根拠はあるの?
● 「仏滅」という名だが仏教ではない
六曜の中には「仏滅」という言葉がありますが、実はこれも仏教とはまったく関係がありません。仏教の経典や教義には六曜という概念は一切登場しないのです。
あくまでも「仏が滅するほどの大凶日」という、言葉のイメージによる俗信に過ぎません。
● 本来、葬儀の日取りと仏教は無関係
仏教の教えとしては「いつ・どのように葬儀を行うか」に特定の決まりはありません。むしろ、亡くなった瞬間から葬儀は始まると考えられ、六曜よりも故人やご遺族の状況を最優先すべきとされています。
それでも日本文化として「六曜を尊重する」風習が続いているのは、やはり宗教よりも民間信仰や慣習的要素が強いからなのです。
7. 六曜との付き合い方~まとめ
葬儀というのは、故人を送り出す大切な行事です。悲しみのなかで日程調整をしなければならず、そこに「六曜」という縁起ものの考え方が入ってくると、どうしてもややこしくなりがちです。しかし、現代社会で六曜を巡って大切なのは以下のポイントに尽きます。
- 六曜は科学的・宗教的根拠のない“民間信仰”である
- 親族や火葬場など実務レベルで六曜を重視する場合が多く、無視できない現実がある
- 最終的には「遺族の気持ち」や「周囲の理解」を優先し、柔軟に対応する
「友引に葬儀を行うか?」「大安にしたいけど予約はいっぱい…」といった問題が起きたら、まずは火葬場や斎場、葬儀社に相談しましょう。そのうえで、ご家族やご親族とも話し合い、「自分たちが納得できる送り方」を見つけることが大切です。
六曜はあくまで目安の一つ。
本質は**「いかに故人を敬い、良い形で送り出せるか」**にあります。六曜に縛られすぎず、とはいえ周囲と余計な軋轢を生まないように上手に調整しながら、故人を悼む時間を大切にできると良いですね。
▽ この記事のまとめポイント
- 六曜は古代中国の占いに由来し、江戸後期以降に庶民に普及。
- 友引の「友を引く」は俗信であり、仏教や宗教とは無関係。
- 火葬場が友引に休業する地域は多く、実務的にも影響が残る。
- 迷信と割り切っても、年配者や参列者への配慮が必要な場面あり。
- 柔軟に対応しつつ、故人と遺族の気持ちを優先することが大切。

参考:六曜と他の暦注
六曜以外にも、昔から日本には二十四節気や**暦注(れきちゅう)**と呼ばれる占い的要素があります。二十八宿、十二直(じゅうにちょく)などがその代表例です。
しかし現代では、圧倒的に六曜のほうが知名度が高く、カレンダーや手帳にも六曜が書かれていることが多いです。葬儀や結婚式を経験すると、さらにその存在感を感じることでしょう。
終わりに
六曜は「ただの迷信」と一刀両断にできる側面がありますが、冠婚葬祭の“しきたり”として今なお意識されるほど、日本人の生活に深く根付いた文化でもあります。特に葬儀では、大切な儀式を穏やかな形で進めたいという思いから、六曜を気にする方が少なくありません。
もしご遺族や親族が強く六曜を気にするようであれば、その気持ちを否定せずに受け止めながら、実際の進行スケジュールを葬儀社や火葬場と調整するのが賢明です。逆に、まったく気にしない方は、そのまま進めるのももちろん問題ありません。
最終的には、故人にとってもご家族にとっても「良いお別れ」ができるかどうかが重要です。六曜という文化・慣習の存在を知りつつ、必要以上に翻弄されることなく、理想の送り方を見つけていただければと思います。
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